2015年4月開始-新しいタイプの商標について

 2015年4月から、これまでに登録が認められていなかった商標について、登録が認められることになりました。こんなものがと驚かれるものも中にはあるかと思いますが、当該制度の内容や現在の状況などについてご説明いたします。

1.商標とは

 商標とは、一般的に、自社の取扱う商品やサービスを、他社の商品やサービスと区別するためのマーク(識別標識)のことです。
 私たちは、普段の生活において、商品を購入したりサービスを利用したりする際、商品メーカーの企業ロゴや、商品・サービス自体のネーミングである「商標」というものを目印にして選択しています。
 具体的にどのようなものが「商標」に該当するかというと、文字、図形、記号、立体的形状やこれらを組み合わせたもの、或いはさらにこれらに色彩を組み合わせたものなどのタイプがあります。
 従来は、このような文字、図形、記号などが商標登録の対象となっていましたが、2015年の4月1日から、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標及び位置商標というものについても、商標登録ができるようになりました。

2.新たに登録が可能となる商標

3.現在までの登録例(2024年1月10日時点)

(1)動き商標
 テレビのCMで映像として流れるような動きのある映像などのことですが、これまでに256件の出願がなされ、そのうち188件が登録されています。

 登録を認められている動き商標はその多くが、上記の例のように、テレビで見たことがあるような映像となっています。

(2)ホログラム商標
 見る角度によって変化して見える文字や図形などのことですが、これまで21件の出願がなされ、そのうち16件が登録されています。
[例]商標登録第6241211号(権利者:宝ホールディングス株式会社、指定商品:第33類「清酒,日本酒」など)
 【商標の詳細な説明】の欄では、「条件により見え方は異なるが、約20℃以上の温度においては図1に示すとおりに見え、温度が下がるにつれて見え方が変化していき、約16℃の温度では図2に示すとおりに、約13℃の温度では図3に示すとおりに見え、約10℃以下の温度では図4に示すとおりに見える。」と説明されています。
 パック入りの日本酒を冷やして飲む際に、飲みごろの温度になっているか否かがひと目で分かるよう考えられています。

(3)色彩のみからなる商標
 商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩などのことですが、これまでに577件が出願され、そのうち登録が認められたのはたったの9件のみとなっています。
[例]商標登録第6201646号(権利者:ユーシーシー上島珈琲株式会社、指定商品:第29類「缶入りのコーヒー入り乳飲料」第30類「缶入りミルクコーヒー飲料」)
 【商標の詳細な説明】の欄では、「色彩の組み合わせとしては、茶色(PANTONE:471)、白色(RGBの組合せ:R255、G255、B255)、赤色(PANTONE:485 2X)であり、配色は、上から順に茶色が商標の25パーセント、同じく白色30パーセント、赤色45パーセントとなっている。」と説明されています。
 色彩のみからなる商標は、特許庁の審査において、原則として識別力を欠くものとして登録できず、「使用による識別性」が獲得されたもののみが登録の対象となるとされているため、これが商標登録に立ちはだかる高いハードルとなっています。色彩のみからなる商標が登録されるためには、長年使用されてきた結果、需要者・取引者に広く認識されていることが必要とされており、識別力をどのように立証するかが重要なポイントとなっています。

(4)音商標
 CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音などのことですが、これまでに762件の出願がなされ、そのうち360件が登録されています。
[例]商標登録第5804299号(権利者:久光製薬株式会社、指定商品:第5類「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」)
 音商標の出願に当たっては、音声ファイルの提出が必要とされ、MP3[MPEG audio layer-3]形式のデータを記録したCD-R又はDVD-Rを提出する必要があります。なお、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報プラットフォームJ-PlatPatで、誰でも音声再生により聴くことができます。

(5)位置商標
 図形等の商標であって、商品等に付す位置が特定される商標のことでありますが、これまでに648件が出願され、そのうち184件が登録されています。
[例]商標登録第5960200号(権利者:キユーピー株式会社、指定商品:第30類「マヨネーズソース」)
 【商標の詳細な説明】の欄では、「赤い太線からなる網の目状の図形を配した構成からなるものであり、商品包装の前面の上部約5分の2の部分に位置します。破線及び黒い実線部分は包装用フィルム袋に入った商品の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではありません。」と説明されています。
 この赤い網目の模様は、キユーピー株式会社の商品を購入する際の目印となっており、信用が化体した大切な財産となっています。そのため、通常の図形商標として従来より商標登録を有しているものでありますが(商標登録第1542819号)、これに加えて今回の位置商標についてもいち早く出願・登録されたものであります。
商標登録第1542819号(権利者:キユーピー株式会社、指定商品:第30類「マヨネーズソース」)

4.まとめ
 今回の商標法改正により、伝統的な商標の概念とは異なる新しいタイプの商標が商標登録により保護することが可能になりました。
 新しいタイプの商標制度の出願の状況を見ると、企業のブランド戦略において最も関心が高かった「色彩のみからなる商標」及び「音商標」について出願件数が多くなっている一方、「色彩のみからなる商標」については、特許庁の厳格な審査という分厚い壁が立ちはだかっており、出願しても登録に漕ぎつけられる商標は限られているなどという、各商標の特徴もお分かりいただけたかと思います。
 今回の法改正では、におい、触感等については保護対象となりませんでしたが、米国等においては、既ににおいや触感の商標登録がなされており、将来的には日本でも出願が可能となるかもしれません
 今後はこのような出願・登録の状況も踏まえながら、伝統的な文字や図形などの商標のみならず、音や色彩等の新しいタイプの商標についても権利保護を図ることにより、多様なブランド活動を行っていくことがビジネス戦略の一つのカギになるものと思われます。

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